短編小説 ~注射~
平成27年 日本 埼玉県
高島雄一(38)は6歳の息子、裕太を連れて、近所の小児科を訪れていた。毎年流行るインフルエンザの予防接種を受けるためだった。本来は妻が息子を病院へ連れていく予定だったが、予定が入ったとのことなので代わりに雄一が連れていくことになった。
雄一は駐車場で裕太を車から降ろして鍵をかけ、予防接種を怖がり半泣きの裕太の手を握りながら病院の入口へと歩いた。
病院の入口付近には、サングラスをかけた中年のガラの悪い男が一人いた。
裕太を連れ入口のドアの近くへ行くと、男が話しかけてきた。
「インフルエンザの予防接種ですか?」
雄一は答える
「はい。妻に頼まれて。」
男は言った。
「去年は随分、インフルエンザ流行りましたからねぇ。」
雄一は男の話に相槌を打っていた。
男は、泣く裕太へ話しかけた。
「大丈夫、すぐ終わるよ。ほら、頑張ってな」
そう言うと、裕太はすっかり泣き止み男へ笑顔を向けて、
「うん!」
と言った。
予防接種が終わり、雄一は裕太と一緒に待合室に座っていた。予防接種の注射は痛かったらしいが、裕太は泣いてはいなかった。
雄一は受付で代金を払い、病院の外に出た。
すると先ほどの男が、裕太へ
「よく頑張ったな!偉いぞ」
と言った。裕太は笑っていた。
雄一は
「励まして貰ったおかげで、息子は泣きませんでした。ありがとうございます。その前は随分注射を怖がっていたんですが」
と男に礼を言った。男は裕太に
「おじさんは自分で注射を打っちゃうからなぁ」
と言っていた。
雄一は、思わず苦笑いしてしまった。
あとがき
初めて短編小説を書いてみました。今後もこういった短編小説を書いていくと思うので、読者になってもらえると嬉しいです。
読んでいただき、ありがとうございました。
さしみ